スコッチ蒸留所(H~N)scotch_distillery_HtoN


                        

蒸留所紹介(H)

・ハイランドパーク HIGHLAND PARK 地域:アイランズ
ハイランドパーク蒸留所は、ハイランド地方ではなく、スコットランド北側のオークニー諸島にあるメインランドにあり、その名前は「ハイパーク」と呼ばれる場所に由来しています。
スコットランド最北端の蒸留所としても有名ですが、公式に設立される前は、密輸業者であり、この地域のヴァイキングの子孫であるとされるマグナス・ウンソンによって、密造所が運営されていました。
その為、蒸溜所の正確な歴史は謎に包まれており、設立当初の日付については不明ですが、ボトルにはすべて1798年と記載されていて、正式に蒸溜が開始された時期を示しています。
非常に歴史が古く、年間250万リットルと規模の大きい蒸留所ですが、伝統的なフロアモルティングを使用している蒸留所でもあります。
1937年にハイランドディスティラーズが買収してから、シングルモルトとして積極的に販売し始め、蒸留所の生産物の大部分は今でもシングルモルトウイスキーに使用されていますが、ブレデッドウイスキーの「カティ―サーク」や「フェイマスグラウス」のキーモルトとして知られています。
味わいはシェリー樽熟成に強くこだわっており、蒸留所には4万樽以上の樽がありますが、その9割以上がシェリー樽となっています。
現在、スコットランドでは数少ないオークランド産のピートを使用しており、そのピートは最北のオークニー諸島が4000年の歴史を経て育んだヘザーの花を元としており、ハイランドパーク特有のアロティックでバランスの取れたスモーキーフレーバーが生み出されます。
日本ではハイパと略して呼ばれていたりしますが、スタンダードの12年である「ヴァイキングオナー」は甘さ、スパイス、スモーキー、ピートが高次元でバランスしており人気です。

・ホーリールード HOLYROOD 地域:ローランド
ホーリールード蒸留所はマッカラン蒸留所の元マスターブレンダーであるデイビット・ロバートソン氏と、スコッチモルトウイスキー・ソサエティカナダ支部創設者のカーペンター夫妻が2019年に創業した蒸留所であり、ローランド地方エディンバラ市街地では約100年ぶりにできた新しい蒸留所です。
ヘッドディスティラーのジャック・メイヨーは、エディンバラ大学で2014年に天体物理学の博士号を取得し、同年にヘリオットワット大学で醸造学と蒸溜学を修めたという異色の経歴の持ち主。
しばらくグラスゴー蒸溜所で働いた後、ホーリールード蒸溜所を創設するためエディンバラに帰ってきました。
かつて駅の貨物倉庫として使用されていた築 180 年の歴史ある建物を利用し、高い煙突のような長いポットスチルが特徴的で、これまでのポットスチルはグレンモレンジーの5.14mが最長でしたが、それをゆうに超える7mと最も長い構造をしています。
ここでは、5種のモルトウイスキーの造り分けをしており、「フローラル」「フルーティ」「スイート」「スパイシー」「スモーキー」と名付け、それぞれ使用する麦芽や酵母、蒸留方法、使う樽も異なっています。
ウイスキーマガジン主催の“アイコンズ・オブ・ウイスキー・スコットランド 2022”において「クラフト・プ ロデューサー・オブザ・イヤー」に輝いており、世界が注目する期待度の高い蒸留所です。

蒸留所紹介(J)

・ジュラ JURA 地域:アイランズ
ジュラ蒸留所は正式にはアイル・オブ・ジュラ蒸留所と言い、ジュラ島と言う意味でその名の通りジュラ島に存在します。
ジュラ島は作家のジョージ・オーウェル氏が「1984」を執筆した島としても有名でありますが、ウイスキーの聖地「アイラ島」の北東すぐ隣にあり、面積が約360平方キロメートル(東京23区の半分、琵琶湖の半分)で人口180人と言う非常に小さな島です。
ジュラはヴァイキングが使用していた北ゲルマン語を語源に「鹿」と言う意味で、野生の鹿が多く生息している島になり、人口180人に対し野生の鹿は約5,000頭も生息しています。
島に渡る唯一の交通手段はお隣アイラ島のポートアスケイグ港から出る小さなフェリーに乗る事だけだそうです。
そんなジュラ島ですが、昔からウイスキーの密造が行われており、1502年にはウイスキー造りが行われていたという記録が残っています。
ジュラ蒸留所の正式な創業は1810年と言われていて、歴史のある蒸留所の一つです。
1905年に現オーナーのホワイト&マッカイ社が買収して以来、ノンピートとヘビリーピートの2種類の麦芽を使用し、多くのシングルモルトを造っています。
使用する樽は、バーボン樽とヨーロピアンオークのシェリー樽となっており、アイラ島に近い立地ながらスタンダードはノンピートでハイランドモルトのような重厚感とフルーティさがあり、若干土の様な風味があります。
スコットランドでは非常人気がある蒸留所で、ボトルの形が特徴的で非常にかわいらしいデザインです。
スタンダードのジュラ10年は店主が好きなウイスキーでもあります。

蒸留所紹介(K)

・キルホーマン KILCHOMAN 地域:アイラ
キルホーマン蒸留所は、アイラ島の西側に位置して、アイラ島の蒸留所としては内陸側にある蒸留所です。
名前の由来は、キルホーマンと言う地域名から来ており、元は教会の名で、ホーマンと言う聖人(ゲール語でキル)が由来しているそうです。
設立は2005年とスコットランド全体としても新しく、アイラ島では124年ぶりに新設された蒸溜所となります。
アイラ島ではキルホーマンが新しい風を吹き込んで以来、アードナッホーを初め、建設計画がいくつか発表されています。
キルホーマン蒸留所のコンセプトは昔ながらの大麦農場と蒸溜所が併設されたファーム・ディスティラリーという体制でのウイスキーづくりを復活させる事で、現在の製品の「100%ISLAY(アイラ)」シリーズは大麦の栽培からボトリングまでを100%アイラ島内で行っている、材料からアイラ産のシングルモルトです。
伝統的で手間のかかるフロアモルティングを採用し、使用するピートもアイラ島産で、フェノール値は50ppmとアイラモルトらしくヘビーピートの部類です。
通常ラインナップとして、蒸留所近くのアイラ島で一番美しいと言われるビーチの名を付けた「マキヤーベイ」は、バーボン樽を使用したフラグシップとなっており、蒸溜所から北西に位置する小さな入り江の名をつけた「サナイグ」はオロロソシェリー樽を使用したフレーバーが特徴的です。
100%ISLAYシリーズや、年数表記品も販売されており今後が楽しみな蒸留所です。

・キングスバーンズ KINGSBARNS 地域:ローランド
キングスバーンズ蒸留所は、スコットランド東側のローランド地区のファイフ、キングスバーンと言う場所にあり、キングスバーンズ・ゴルフリンクスと言うゴルフ場が有名で、15km程度西に行くと、ゴルフの聖地であるセントアンドリュースがあります。
設立は2014年で比較的新しい蒸留所となっており、名前の由来は、バーンズは大麦と蔵を合わせた言葉で、この地域が良質な大麦が取れる地域だと言う事に由来しています。
生産量は蒸留器が初留と再留器が1器ずつで60万リットルと小規模であり、 「Dream to Dram」(夢を1杯のウィスキーに込めて)と言う想いを掲げ、地元産の大麦だけを使用し、 イングランドに送って製麦してから再び蒸溜所に送り返すという材料への拘りを持っています。
拘りは材料だけでなく、製造工程において、発酵時間を通常48~96時間に対し、72~120時間と長くとることで、フルーティで軽やかなウォッシュ(発酵液)を作っている。
また、蒸留工程も時間を長く取り、ノンピートかつ繊細でフルーティー、フローラルで複雑な味わいが造りこまれます。
クラフト蒸留所によくみられるジンの製造を蒸留所の隣の農家小屋を改装したダーンリーズ蒸溜所で行っている所も面白く、今後も目を離せない蒸留所です

蒸留所紹介(L)

・ラグ LAGG 地域:アイランズ

ラグ蒸留所は、アイルオブアランディスティラリー社が運営する蒸留所で、アラン島にあるロックランザ蒸留所に次ぐ2つ目の蒸留所です。

ラグよりもラッグと言う方が発音が近く、アラン島北側にあるロックランザとは逆の南側にある地域にあり、その地方の名前からとっています。

稼働は2019年とかなり最近で、ロックランザ蒸留所の保管庫を増設する為に2017年に建てられ、その後蒸留所として稼働しています。

アラン島は北側と南側で地形が異なり、北部は山間部で南部は平地で自然が豊かな島で、蒸留所自体がアラン島の豊かな自然を表している造りなっています。ちなみに、かつてアラン島に3つあった蒸留所の1つで1836年に閉鎖した蒸留所の跡地に建てられています。

酒質はアランに対するピーテッドタイプの「マクリームーア」のライトピート(フェノール値14~22ppm)に比べて、50ppmのヘビリーピーテッド麦芽を使用しているピートタイプとなり、材料となる麦はロックランザがディアブロ種に対し、ノリエット種が使用されている事が異なる点で、ピートは本土のピートを使用している事は同じとの事です。

発酵時間の違いや蒸留器の違いで、ナッティでパワフルな酒質となっており、アイラとは違うピート香、草、土、潮を感じる味わいです。

現在マクリームーアの蒸留は終了している為、アラン島の新しいピーテッドタイプとなっており、2024年に定番ラインナップの「キルモリーエディション」と「コリクレヴィエディション」が発売となりましたが、量より質にこだわり、流通量は少ない状況です。


・ラガヴーリン LAGAVULIN 地域:アイラ
ラガヴーリンはゲール語で「水車小屋のある窪地」という意味です。
1742年当時から密造酒造りをしていた為、スコットランドで最も古い蒸溜所の一つと言われますが、正式に設立されたのは1816年です。
アイラ島の南、キルダルトン海岸に設立され、アードベッグとラフロイグの中間に位置しています。
ブレンデッドウイスキーのホワイトホースのキーモルトとしても知られていますが、 1988年ユナイテッド・ディスティラーズ社時代に同社が発売した「クラシックモルト・シリーズ」のアイラ島代表としてシングルモルトウイスキーが発売され、全世界で話題となりました。
それ以降、シングルモルトにも力を入れ、現在の生産量は年間220万本と言われ、アイラ島ではラフロイグに次いで2番目の生産量です。
玉ねぎ型のくびれのないポットスチルが特徴的で、ピートによるフェノール値は38ppmに調整され、ピート感、スモーキーさと共にある濃厚な味わいは正に「アイラの巨人」と言われるに相応しい味わいです。

・ラフロイグ LAPHROAIG 地域:アイラ
ラフロイグはゲール語で「広い入り江の美しいくぼ地」という意味で、静かで美しい入り江に面して建てられています。
当初は牛を飼育するための飼料用の余った大麦を使ってウイスキー作りを始めましたが、作られるウイスキーは特に優れていると評判になり、1815年に正式にラフロイグ蒸溜所がに誕生しました。
フロアモルティングを続ける数少ない蒸留所のひとつで、自社製麦芽は15%でフェノール値45~55ppm、その他(ポートエレン製もしくは本土産)は35~40ppmであり、仕込みには必ずこれらを混合します。
主力商品の10年は1stフィルのバーボン樽しか使わないというこだわりを持っています。
ラフロイグの現在の販売数は年間380万本を超えておりアイラ島では断トツの1位です。
生産量の70%がシングルモルト用で、30%がブレンデッド用となっています。
味わいはピートによる強烈なヨード感、スモーキーさがあり、キャッチコピーは「好きになるか、嫌いになるかのどちらか(You either love it or hate it.)」というほど、クセの強いウイスキーとして有名です。
ラフロイグはチャールズ皇太子のお気に入りで、シングルモルトとしては唯一王室御用達を授かっていて、皇太子の紋章をラベルに使うことのできる唯一のシングルモルトになります。

・ロッホリー LOCHLEA 地域:ローランド
ロッホリー蒸溜所は、 2018年に「蛍の光」で知られる詩人ロバート・バーンズがかつて農業を営み、詩の創作に励んだローランドの農場に創業した家族経営の蒸溜所です。
現在は元ラフロイグ蒸留所マネージャーのジョン・キャンベルがマネジメントを行っており、家族経営の利点である自由な発想で革新的で柔軟なウイスキー製造を行っています。
農場で大麦麦芽の栽培に着手し始め、100%自社栽培の大麦から丁寧にシングルモルトウイスキーをつくっています。
味わいはゆっくりと蒸留を行うことで、非常にエレガントでフルーティーになっています。
ラフロイグカスクやカベルネ・ソーヴィニヨンカスクといった様々なカスクタイプを使用しており、今後が楽しみな蒸留所です。

・ロックランザ LOCHRANZA 地域:アイランズ
ロックランザ蒸溜所は、2019年までアラン(アイル・オブ・アラン)蒸留所という名前でした。
運営はアイル・オブ・アラン・ディスティラーズ社で、2018年にラグ蒸留所を再び立ち上げた事で、名称を変更しました。
スコットランド西側のアラン島にある同名の村にあり、古代ノース語で「ナナカマドの木の入り江」という意味を持ちます。
アラン蒸留所(当時)は1995年にアラン島でラグ蒸留所閉鎖後約160年ぶりに誕生した蒸留所であり、独立資本のため、ブレンド用の原酒づくりではなく、シングルモルトウイスキーを製造している数少ない蒸溜所です。
日本でも広がっている、少量生産のクラフト蒸溜所のパイオニアとして知られています。
スタンダードボトルであるアランモルト10年は、1stフィルのバーボン樽原酒をメインとし,シェリーホグスヘッド原酒をバランスよくブレンドしており、フルーティさやモルティなテイストが感じられます。
熟成樽も多岐にわたっており、その人気により、近年では入手が困難になっています。
ピーテッドモルトとしては「マクリームーア」という名称で販売されていますが、2024年の情報ではピーテッドウイスキーはラグ蒸留所に集約し、マクリムーアの生産はしておらず、現存する樽のみとの事です。

・ロングモーン LONGMORN 地域:スペイサイド
ロングモーン蒸留所はエルギン南にあるロングモーンという地名の場所にあり、ロングモーンとはゲール語で「聖人の場所」を意味しており、蒸留所が建っている場所にはもともと教会があったとされています。
ニッカの創業者である竹鶴政孝が、1920年にスコットランドに留学した際、最初の1週間この蒸溜所で働いており、ニッカの2つの蒸溜所のスチルは、ロングモーンをモデルにしていると言われています。
創業は1893年で、ウイスキー企業家のジョン・ダフによって設立されました。
ジョン・ダフは最初グレンドロナックで働き、1876年に近くのグレンロッシー蒸留所を設計した後、南アフリカやアメリカへ渡り、帰国した時にロングモーン社を設立しその5年後隣にベンリアック蒸留所を建設すると言うスコッチウイスキーの歴史の中でも興味深い人物です。
ウイスキー造りの為に蒸留所の目の前に駅を造り、ウイスキーを世界中に届けられるようにする為に汽車を走らせると言うアイデアと実行力の持ち主で、オフィシャルボトルには汽車のイラストが描かれています。
1899年にジェームスグラントに売却されましたが、創業以来経営危機で閉鎖した事は一度もない数少ない蒸留所です。
ブレンデッドウイスキーの「シーバス・リーガル」のキーモルトであり、原酒の多くはブレンド用に使用される為、シングルモルトはあまり出回りませんが、オフィシャルで発売されています。
「スペイサイドの隠れた宝石」と呼ばれるほどのリリースは少なく、18年熟成のシングルモルトの味わいは長期熟成らしいまろやかでオイリーな口当たり、そしてチョコやナッツ感を感じられる味わいです。
2024年2月にペルノリカール社から独立ブランドとして生まれ変わったと言う事でラベル類が刷新されて販売されており今後の動向が楽しみな蒸留所です。

蒸留所紹介(M)

・マノックモア MANNOCHMORE 地域:スペイサイド

マノックモア蒸留所はスペイサイドにあり、マノックモアとはゲール語で「大きな丘」を意味しており、蒸留所の南にある「マノックヒル」から命名されています。

ディアジオ社の前身のDCL社がグレンロッシー蒸留所の敷地内に第二工場として1971年に創業しており、年間生産量は600万リットルと多く、ブレンデッドウイスキーのヘイグやディンプルのキーモルトとして知られています。

オフィシャルリリースとしては、「花と動物シリーズ」からシングルモルトが発売されており、フローラルな香り、シナモン、麦の香り、そしてスパイシーさにバニラ、コーヒーのようなコクと甘味が混在した複雑な味わいでファンも多い銘柄です。


・モートラック MORTLACH 地域:スペイサイド

モートラック蒸留所はスペイサイドのダフタウン市街の外れに位置しており、ゲール語で「椀状のくぼ地」を意味していると言われています。しかしmortlachのmortが椀状を意味すると言う所は私では調べきれませんでした。

創業は1823年とスコットランド全体でも古く、ダフタウンの合法蒸留所としては最古となります

グレンフィディック蒸留所がすぐ近くにあり、グレンフィディックを設立したウィリアム・グラントはモートラック蒸留所で20年間働いていました。

1837年にはグラント兄弟に買収され、設備をグレングラントに移設したため、しばらく閉鎖されていました。ちなみにグラント兄弟とウィリアムグラントはまた別のグラント家であり、グレンファークラスのグラント家とも別の様です。

その後、1951年にジョン・ゴードンが買収し、1953年には当時を代表する技術者・科学者であり、数々の改革を起こしていたジョージ・コーウィーが参画し、ウイスキーの製造工程を科学的に構築し、モートラック独自の蒸溜方法「2.81回蒸溜」を生み出しました。

少数点以下が0.81回と言う理解し難い蒸留回数については、通常初溜釜と再溜釜はセットで稼働しますが、3回の蒸留の中で、6基の蒸留器が、2基は対で動き、その他の4基が蒸留中に複雑に稼働する為、2.81回の蒸留となります。

また、複雑に稼働する再溜釜の1つは「ウィーウィッチ(小さな魔女)」という名前が付けられており、これらの複雑な蒸留工程が、甘くスパイシー、そしてミーティ(肉感)さを感じさせる芳醇さと力強さを生み出しています。

長年原酒はジョニーウォーカーなどのブレンデッド用に使用されており、少量がシングルモルトウイスキーとして「花と動物」シリーズからリリースされていましたが、その複雑で力強い味わいから「ダフタウンの野獣(Beast of Dufftown)」や現在所有しているディアジオの「異端児」と言われています。

2014年より、オフィシャルリリースをされており、12年、16年、20年が定番商品となっています。